2020年のIT補助金は、この新型コロナ問題で「急発進」で公募をかけた特別な申請がありましたが、5月11日から令和2年の補正予算も加味した補助金の申請が開始されます。今回は幾分シンプルになった旧来のA・B類型のツールと本当にユーザ側の期待通りのツールが登録されるのか不安なC類型の申請手順について説明します。IT導入支援事業者側の解説も併せてごらんください。
2020年IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業・小規模事業者が『足腰の強い経済を構築』するため、生産性の向上を目的とした業務プロセスの改善と効率化に資する「ITツール」を導入する際の経費の一部を補助する補助金事業です。
補助率と補助額は?
IT導入補助金では、選択するツールの有する業務プロセスの数によって、A・B類型の2タイプに分かれて補助額が異なります。また、新型コロナ対策で特別に組まれたC類型というものも登場しました。
補助対象経費区分 | ソフトウェア費、導入関連費、ハードウェアレンタル費 (C 類型のみ) | ||
補助率 | 1 / 2 以 内 | 2 /3以内 | |
補助上限額・下限額 | A 類型 | 30 万円 ~ 150万円未満 | C類型 |
3 0万円 ~ 4 5 0 万円 | |||
B 類型 | 150 万円 ~ 450万円 |
AとBの違いは、有する業務プロセスの数に違いがあります。
種別 | Pコード | プロセス名 | A類型 | B類型 | C類型 |
共通プロセス | 共P-01 | 顧客対応・販売支援 | この中から1つ以上 | この中から4つ以上 | この中から1つ以上と特別枠の甲乙丙のいずれかの目的に資するもの |
共P-02 | 決済・債権債務・資金回収管理 | ||||
共P-03 | 調達・供給・在庫・物流 | ||||
共P-05 | 会計・財務・資産・経営 | ||||
共P-06 | 総務・人事・給与・労務・教育訓練・テレワーク基盤 | ||||
業種特化型プロセス | 各業種P-04 | 業務固有プロセス |
昨年までは、これに汎用プロセスと効率化プロセスという謎の機能がついてないとツールとして登録できずに、結局は大手ベンダーのソフトウェアを中心に当初は登録されて不評だったのですが、これがなくなりました。
また、C類型は特別枠といって、この新型コロナ対策のための次の3つのうちいずれか1つのITツールが1つ以上含まれていて、その要素がツール全体の1/6以上含まれているものを指します。
甲:サプライチェーンへの毀損対応
顧客への製品供給を継続するために必要なIT投資をする事業
乙:非対面型ビジネスモデルへの転換
非対面、遠隔でサービスを提供するためのビジネスモデルへ転換するために必要なIT投資をする事業
丙:テレワーク環境の整備
従業員がテレワークを実践できるような環境を整備するための IT投資をする事業
ここからが、IT導入補助金の悪癖「わかりにくさ」です。さらに、この甲乙丙のうち、甲はマストととして、乙と丙のうちどちらか一つか両方を備えたツールとで、補助金申請額が異なります。
類型 | 補助金申請額 | 賃上げ要件 | 補助率 | プロセス数 | 甲乙丙要件 | ハードウェアレンタル要件 |
C類型-1 | 30~150万円未満 | 加点項目 | 2/3 | 1 | 甲ツールのみを導入 | 選択可 |
150~450万円 | 必須要件 | |||||
C類型-2 | 30~300万円未満 | 加点項目 | 乙or丙どちらか1つ以上を導入する | |||
300~450万円未満 | 必須要件 |
C類型は上記の甲乙丙要件のみではなく、この後説明する賃上げ要件の達成条件によっても補助額がことなります。難しいですね。また、今年の募集要項には明記されていませんでしたが、昨年はA・B類型間での複数ツールの申請はOKでしたが、今年のA・B類型間の選択が可能かどうかはわかりません。しかし、C類型の募集要項には「A・B類型と併せてツールは選択できない」となっていますので、少なくとも甲乙丙要件をみてもそうですが、C類型間では複数ツールの組合せはOKだということでしょう。
また、A・B類型においては「ECサイトの制作」は対象外となっていましたが、C類型においては「乙」に対応したうえで、共通プロセスの「顧客対応・販売支援」に当たるのではないかと思います。
まずは、ご自身が使いたいツールをIT補助金のポータルサイトから探すことが重要です。
補助対象経費とは?
上記の6つの業務プロセスのうち1つ以上を担うソフトウェアそのものの費用と、次に示すオプションや付帯サービスの費用も対象となります。
オプション | 事例 |
自動化・分析ツール | ●特定の業種や業務に使用が限定されず、複数のシステムの高度な連携や解析・分析の機能により生産性向上に寄与するツール。 ●ソフトウェア(業務プロセス・業務環境)を和用した業務の自動化を制御するツール。 (例) B I 、 B P( ビジネス・プロセス)分析、作業工 程分析や R P A などの ソフトウェア製品。 |
汎用ツール (テレワーク環境の整備に資するツール含む) |
●特定の業種や業務に使用が限定されず、広い業務に適用できるソフトウェア。 (例)表計算・ワープロ・簡易データベースやメール・グループウェア等などのSaaSのライブラリーなどが該当する。汎用ツール(テレワーク環境の整備に資するツール含む)用に作成さ れた業務テンプレート(マクロ/ V B A 等の生成物など)もこれに該当する。 |
機能拡張 | ●ソフトウェア(業務プロセス・業務環境)の機能を拡張するソフト。 (例)フォーマット変換、バックアップ、ファイル管理などのユーティリティーW E B サーバ、 D B サーバ、システム運用など のミドルウェア パッケージ |
データ連携ツール | ●ソフトウェア同士のデータ連携を 行うソフトで、 EAI製品など 。 EAI • • • Enterprise Application Integrat ion の 略 |
セキュリティ | ●PC やソフトウェアの保護やデータを 暗号化することにより保護するソフトウェア製品 、認証・監視システムなど。 (例)監査・診断・監視・運用などのサービスは役務(付帯サービス)として申請すること |
付帯サービス | 事例 |
導入コンサルティング | ●交付決定後に発生するソフトウェア(業務プロセス・業務環境)の導入に向けた詳細設計(導入計画、教育計画の策定等)などのコンサルティング費用。 |
導入設定・マニュアル作成・導入研修 | ●導入設定・マニュアル作成・導入研修 ●上記結果に基づく設定費用、マニュアル作成費用など。 ※導入に伴う移動交通費や運搬費、宿泊費は対象外。 |
保守サポート | ●バグ発生時の対応、顧客からの問い合せ対応、バージョンアップ対応他、保守契約などに記載された作業であり導入初年度1年分の費用のみが補助対象。 |
ハードウェアレンタル (C類型のみ) |
●本事業において定義するソフトウェア(業務プロセス・業務環境)が利用されることを前提として以下の 2 つを対象とする。 1 . デスクトップ型PC 、ラップトップ型PC 、タブレット型 PC 、スマートフォン 2 . 上記 1 .をレンタル導入する際の付属品と して、 1 . に接続し本要 領 ( 9 ) に定める甲乙丙の事業に対応するためのW E B カメラ、マイク、スピーカー、ヘッドセット 、ルーター (Wifi ルーター・アクセスポイント等)、ディスプレイ、プリンター |
対象となる事業者は?
業種・組織形態 | 資本金・出資額 | 常用する従業員数 |
製造業、建設業、運輸業 | 3億円 | 300人 |
卸売業 | 1億円 | 100人 |
サービス業(ソフトウエア業、情報処理サービス業、旅館業を除く) | 5000万円 | 100人 |
小売業 | 5000万円 | 50人 |
ゴム製品製造業(自動車又は航空機用タイヤ及びチューブ製造業並びに工業用ベルト製造業を除く) | 3億円 | 900人 |
ソフトウエア業又は情報処理サービス業 | 3億円 | 300人 |
旅館業 | 5000万円 | 200人 |
その他の業種(上記以外) | 3億円 | 300人 |
医療法人、社会福祉法人、学校法人 | ー | 300人 |
商工会・都道府県商工会連合会及び商工会議所 | ー | 100人 |
中小企業支援法第2条第1項第4号に規定される中小企業団体 | ー | 主たる業種に記載の従業員規模 |
特別の法律によって設立された組合またはその連合会 | ー | 主たる業種に記載の従業員規模 |
財団法人(一般・公益)、社団法人(一般・公益) | ー | 主たる業種に記載の従業員規模 |
特定非営利活動法人 | ー | 主たる業種に記載の従業員規模 |
全て数字は「以下」です。
他の助成金に比べて、少々細かい範囲まで指定していますが幅広い業種が対応となっているのがわかります。
補助金を交付されるにあたってクリアしなくてはいけない数値は?
補助金は助成金と異なり、申請する事業に対して達成目標を設定しなくてはいけません。すべての事業者の達成目標です。
・SECURITY ACTION一つ星を取得すること
・補助事業を実施することによる労働生産性の伸び率の向上について、1 年後の伸び率が 3 %以上、3 年後の伸び率が 9 %以上及びこれらと同等以上の、数値目標を作成すること。
・導入後3年間の事業期間で、給与支給総額を年率平均1.5 %以上増加すること。
・事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+ 30 円以上の水準にすること。
ただし、C類型で申請した事業者は上記の数値達成のカウントを1年繰り越すことが可能です。
これらの条件は未達成だと補助金を返還しなくてはいけません。それではどういった場合に未達成となりうるのでしょうか?
・事業計画終了時点において、給与支給総額の年率平均 1 . 5 %以上の増加目標が達成できていない場合は、補助金の全部もしくは一部の返還を求める場合がある。
・ただし、付加価値額が目標通りに伸びなかった場合に給与支給総額の目標達成を求めることは 困難なことから、給与支給総額の年率増加率平均が「付加価値額の年率増加率平均/ 2 」を越えている場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めない。
•また、給与支給総額を用いることが適切ではないと解される特別な事情がある場合には、給与支給総額増加率に代えて、一人当たり賃金の増加率を用いることを認める。
・事業計画中の毎年3 月時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合は、補助金額の全部もしくは一部の返還を求める。
・ただし、付加価値額増加率が年率平均 1 . 5 %に達しな い場合や、天災など事業者の責めに負わない理由がある場合は、上記の補助金一部返還を求めない。
※本事業において付加価値額とは、粗利益を指す。(粗利益 = 売上高一原価)
相当厳しい条件が付けられていますね。これはものづくり補助金でも説明しましたが、近年、「補助金コンサルタント」が横行し始めていて「事業内容やそれに適した事業計画を立てずに補助金申請を通す」輩が増えています。すると、労働生産性や付加価値額といった目標を達成できずに、「補助金をどぶに捨てる」事業者が多くなり課題となっていました。そこで、達成目標をしっかりと作ることで、「なんとなく申請した」事業者を排除する狙いがあります。
加点項目とは何でしょうか?
加点項目とは、上記の必須要件のほかに特殊な取り組みをしていたり、さらに上積みをした達成目標を設定している事業者に対して、審査時に特別な取り計らいをするというものです。
各類型共通
(1)地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画の承認を取得していること。
(2)交付申請時点で地域未来牽引企業に選定されており、地域未来牽引企業としての「目標」を経済産業省に提出していること。
(3)導入する I Tツールとしてクラウド製品を選定していること。
(4)導入する I T ツールとしてテレワーク対応製品を選定していること 。
(5)導入する I Tツールとしてインボイス制度対応製品を選定していること。
おそらく、(1)(2)はなかなかできない取組みですが、(3)~(5)はいずれかに当てはまるものと思います。
A類型の申請者およびC類型の申請者
•事業計画期間において、給与支給総額を年率平均 1 . 5 %以上増加(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者等が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年 率平均1 %以上増加)
•事業計画期間において、事業場内最低賃金(事業場内で最も低い賃金)を地域別最低賃金+3 0 円以上の水準にする
となります。C類型の場合には先ほどの表のとおりに加点項目が適用されます。また、最低賃金の引上げに関しては該当従業員に表明することが必要で、もし表明していないことが発覚した場合は、補助金額の返還が求められます。
具体的な申請の方法は?
申請にあたっても、昨年まではIT補助金のポータルでの電子申請でよかったのですが、今年から経産省肝いりのg Biz IDを作成しなくてはいけません。
g Biz IDの取得方法
➀g Biz IDのホームページにアクセスする
➁「g Biz IDプライム作成」をクリック
③必要事項を記入
④ブラウザ上に発行される申請書を印刷
⑤会社の実印を押印。(日付もご記入ください)
⑥直近6か月以内に発行した「印鑑証明書」と共に申請書下部に記載されている事務局まで郵送ください。
※発行までには2~3週間かかります。
※登録される携帯電話番号は、申請の際に使用するワンタイムパスワードをSMSで送るためのものですので、申請時に入力される方が使いやすい番号を指定してください。
※緊急経済対策の発表で、このシステムを使った補助金などの申請が増えていて、IDの発行申請が増えていると思われますので、早めの対応をお勧めします。
ここでのID・PWをもって次はIT補助金のポータルでの申請です。
IT補助金ポータルで必要となる書類や情報とは?
交付申請に必要な書類は複数あります。中にはコロナ対応で忙しい役所に取りに行かなくてはならないものもありますので、要注意です。
法人の場合
実在証明書 | 履歴事項全部証明書(発行から3か月以内) |
事業継続確認書類 | 納税証明書「その1」「その2」 |
個人事業主の場合
本人確認書類 | 運転免許書もしくは運転経歴証明書もしくは住民票(発行から3か月以内) |
事業継続確認書類1 | 納税証明書「その1」「その2」 |
事業継続確認書類2 | 税務署が受領した直近分の確定申告書Bの控え |
このほかに申請する際には、経営診断ツールに打ち込みをしていきますので、次のような経営成績がわかる書類があるといいでしょう。
・直近3か年の決算書
・直近3か年の従業員名簿や人件費をまとめた書類
これらの入力や計算方法がわからないときは支援事業者や中小企業診断士に相談するのもいいかもしれません。
申請の流れは?
黒い太枠が、申請者のやる作業です。また、検討しているツールを販売している支援事業者と共同して作業を進めなくてはいけませんので、思いのほか煩雑です・・・。
また。事業計画の第三者の確認宣誓という項目では、ITコーディネータや中小企業診断士といった資格を保有するもののチェックが必要となりますので、やはり事業計画策定時から相談をしておくことが無難なようです。
申請期間は?
交付申請期間は 2020年5月11日(月)~12月下旬 を予定しています。また、もし交付が決定したとして、支援事業者との間で契約をしてツールを導入するのは、交付決定後6か月以内ですので注意してください。
まだ、g Biz IDを取得していない方は、間もなく交付申請が始まりますので、早めに取得することをお勧めします。
申請単位と申請回数は?
1回の申請とはどういった単位か?また、もし最初の申請で落ちてしまったときは再チャレンジできるのかを考えてみましょう。
申請単位
基本的に1つのツールに対して1つの申請が通った場合は、これ以上に申請することはできません。
申請回数
もし不採択になった場合や、交付決定後に申請の取下げを行った場合でも次回以降の締め切りまでに交付申請可能です。
C類型の遡及申請とは?
もし、新型コロナ対策でITツールを導入した時に、甲乙丙条件のうちいずれかに当てはまるツールに該当する場合には、4月7日(火)~5月10日(日)の間に契約したものも補助金の対象になるかもしれません。
その場合には、ツールを導入した事業者に問い合わせをして、その事業者が支援事業者として登録し、ツールも登録した場合に補助金の申請が可能となります。
今年はさらに複雑なIT導入補助金
今年は、C類型の登場と返還規定、さらにはg Biz IDと複雑さを増すIT導入補助金。それもこれも一部の心無い人の申請でまともに結果が出せないために、この補助金の存続に「?」が付いたためといえます。この新型コロナの苦境を乗り越えて、しっかりとした結果を出すための優れたITツールの使い方を示す必要がありそうです。
また、3年間にわたって事業の成果や賃金の報告義務が発生しますので、これまでとは異なり、しっかりとフォローのできるIT導入支援事業者やITコーディネータ、中小企業診断士の支援を受けながらツールの選定導入を進めることをお勧めします。
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